n_kunnnnの日記

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北ロマンス語考察

ロマンス語について、現状想定している内容を思いつく限り書いていきたいと思う。

 

・北ロマンス語構想とは

ロマンス語構想とは「エスペラントエスペラント諸語が現実にもし存在したら、どのような系統・歴史を持っているのか」を考えるものである。

エスペラントは国際補助語として、互いに違った母語を持つ人々が、簡単な文法と語彙を学ぶことにより容易に意思疎通をできるように創られたものである。

人工言語としては世界最大規模のプロジェクトであり、一説には世界中に百万人を超える話者がいるとも言われ、この点で最も成功した人工言語とも称される。

しかし、一方でエスペラントに対する評価の中には批判意見も多く存在する。

その中で私がよく見かけたのは、「エスペラントは大部分の文法・語彙をヨーロッパの印欧語(特にロマンス語)から採用していて中立的ではない」「合成語で表すことのできる語彙が単純語として登録されている」という類のものである。

これは裏を返すと、ロマンス語的な自然言語の特徴を持っている(残している)ということであり、エスペラントロマンス語系の架空言語として構想することが可能ではないかと私は考えた。

 

エスペラントの原郷地

実在のエスペラントは、ポーランドの眼科医ザメンホフによって創られた。

そのためか、文法・発音にスラブ語の影響があるとも言われる。

また、語彙にはゲルマン語(主に英語・ドイツ語)の影響が多く見られる。

ここから、架空言語エスペラントの原郷地はゲルマン系とスラブ系が接触する中欧付近を想定するのが良いのではないかと考える。

 

・複合語の多用

エスペラントでは複合語を多用する。これは語根をできる限り減らすことで学習効率を上げるためのものであるが、自然言語としては少しばかり不自然に感じた。

特に、malbonaやpatrinoといった基礎語までが全て複合語になっていることについては何らかの理由付けが必要だろうと考えた。

しかし、malbonaといった単語が常に使われるかというとそういうわけでもない。

エスペラントには詩的な用途に用いられる単語があり、malbonaという複合語はmavaという単純語に言い換えることができる。

しかし、これはあくまで詩的な文章にのみ使える表現であり、正式にはmalbonaが正しいとされる。

ここから、架空言語エスペラントの世界では「正式な場面ではできるだけ複合語を用いる文化がある」と構想した。

このような文化が存在することで、複合語に言い換えられる単語は次々に廃れていったものと考えている。

 

・品詞と語尾の一致

次に不自然さを感じたのは品詞と語尾の完全な一致についてである。

エスペラントでは名詞は-o、形容詞は-a、副詞は-e、動詞は-iなど品詞と語尾が一致するように作られている。

動詞については日本語がそうであるように、語尾が単一であっても不思議ではないと、またエスペラントの副詞の語尾は不規則なものも存在することから自然言語的だと捉えることができるのではないかと考えたが、名詞と形容詞については不自然さを拭えず何らかの理由づけが必要であるとの結論に至った。

ここで、エスペラントでの固有名詞の扱いについて考える。

エスペラントには、格変化があり、エスペラント化された固有名詞であれば普通名詞と同じように曲用される。

しかし、そうでない単語(特に人名)についてはそのままの語根を主格として使い、対格もそのままか-onという語尾を後ろに付けて表すことが多いようである。

この時、名詞の語尾は-oとは限らず、一つの例外と言える。

また、エスペラントでは詩的な表現として名詞の-oを-’に変えることができ、これは語尾の消失と見ることができる。

 この二つの例から、「架空世界での日常語的な場面では名詞の語尾は消失して-’となっており、-oはより堅い(丁寧な)主格を表す接尾辞であり、日常的に使われる機会が少なかったために単純化した」と想定している。

 

 その次に、形容詞の語尾の単一性について考察する。

ここで、エスペラントの代名詞の所有形を参照する。

エスペラントでは「私の」はmia、「あなたの」はviaである。これは代名詞の語幹に形容詞語尾-aをつけたものである。

ここから、私は「より古い時代にはこれが普通名詞にも適用されていた」と想定する。

 エスペラントには属格の語尾が存在しないが、古くは-aが属格の代わりとなる所有形容詞の語尾であり、時代を下るにつれて「所有」の意味が消えていったという想定である。

その過程で、もともと形容詞だった単語も名詞に吸収されていき、形容詞は名詞の変化形として存在するようになったと考える。

 ちなみに、この観点から文法を見ると、エスペラントには品詞としての形容詞が存在しないことになる。

 

・表記法

さらにエスペラントは他のロマンス語と比べて、下記のような表記法に特徴があると感じた。

①/k/を表す"k"、/ts/を表す"c"

"q"を使わない点

③"ŭ"

④代用表記のH後置方式

⑤代用表記のX後置方式

⑥/ks/を表す"x"を使わない点

⑦サーカムフレックス

 

①については、古いラテン語の表記法を継承しているものと考える。

古いラテン語では母音Aの前で"K"、IとEの前で"C"、O,V(/u/)の前で"Q"が使われたようである。

このような表記法が北ロマンス語には保存され、時代が下ってi,eの前の/k/が口蓋化を起こした時に、"c"が/k/の口蓋化した/tʃ/を表す文字として認識され、その後/tʃ/が/ts/に音韻変化をしたものと想定した。

その後、"q"という文字が廃れ(②"q"が廃れた理由については後述)、"k"に置き換えれらたとしている。

 

③"ŭ"については"u"の上に"v"が書かれた合字であると考える。

 

④H後置方式については下記のように考える。

i. "c"、"g"、"s"の文字に"h"を後置させた綴りはそれらの文字の口蓋化音を表しているものである。"h"を用いて口蓋化させる例は英語や他のロマンス語にも見られる表記法なので、問題ないものとする。

ii. "hh"の綴りで/x/のような音を表すことについては、/x/が/h/を強めた音であると考えられたものとする。

iii. "jh"の綴りで/ʒ/を表すことについては次項。

 

⑤X後置方式については下記のように考える。

i. /ʃ/を表す表記法としてドイツ語では"shc"という綴りがある。これを"s"に"ch"(/ç/)を後置させて口蓋音を表しているものと考えた。

架空世界のエスペラントの古い時代においては"x"が/ç/の音を表し、そこから同じような考え方でこのような綴りが生まれたとする。

ii. 上記の通り、"x"は/ç/と発音されたが音韻変化によって/x/に変化したものとする。(その後"x"単体での使用が廃れ、"hx"の綴りが現れた理由は後述)

iii. "JX"という綴りは古くは/j/が音韻変化して出来た/ʝ/を表し、その後音韻変化で/ʒ/となったものとする。もともとの綴りである"J"に/ç/を表す"x"を後置して/ç/の有声音である/ʝ/を表した。"jh"の綴りはこの"x"を"h"に置き換えたものである。

iiii. "ux"という綴りは"V"を2つ並べて/w/を表していた表記法が、2つ目の字が黙字であることを表すためにストロークが書かれ"vv̸"のようになった後、筆記体において"v̸"が"x"と誤認されそのまま広まったものであるとする。

 

 ⑥"x"は上記のような用途で使われたため、/ks/を表す用法は廃れた。(なぜ廃れたかは後述)

 

⑦サーカムフレックスの由来については3つの構想がある。

i. もともとは母音に付いていたアクセント記号。サーカムフレックスがついた母音の前の子音が音韻変化を起こしたため、子音の音変化を表すものとして認識され子音の上に書かれるようになった。

ii. /h/または/ç/を表す記号が変化したもの

iii. 特別な由来はなく、区別するために付けられた記号

正直どれが良いのかわからないので、今後の課題とする。

 

これらの表記法は、古い時代では個人や地域により様々に使われていたのが、その後整備され正式な表記としてはサーカムフレックス、その代用としてH後置、正式では無いがX後置も使われるに至ったと考える。

 

ギリシアへの崇敬

エスペラントには対格の-n、複数の-jのようにギリシア語と似ている接尾辞が存在するが、語彙の面では他のロマンス語に比べて特別ギリシア語の影響が強いとは感じられなかった。

一方でエスペラント諸語の中には複数形が-sや-iになるような他のロマンス語に近い性質を持っているものもある。

ここから、古代においてこの地域ではギリシアへの強い崇敬の念があり、丁寧な表現をするときにギリシア風の活用を多用し、それが丁寧語であったエスペラントに受け継がれたと考える。

ギリシアとの直接的な接触は無いながらもローマ人が崇敬したギリシアの文化を主に宗教の面で特に意識し、初めはギリシア神話やそれにまつわる単語をギリシア風に活用するところから始まり、その後身分の高い者への表現や丁寧の表現として残ったと考えている。

イド語では対格が消失した後、エスペラントの影響で対格表現を再獲得したものと考えている。

 

また、綴りに関してもギリシア語からの影響で説明できると考えている。

まず、/ks/を表す"X"が存在しない点であるが、"X"は正確にはラテン文字の"X"ではなくギリシア文字"Χ"として使われたためであるとする。

正書法が正式に制定された際にX後置方式が代用表記として採用されなかったのも「ラテン文字的ではないから」という理由で説明できると考えている。

つまり、ギリシアへの崇敬から、本来のラテン文字の/ks/を"X"で表す用法を捨て、ギリシア文字に合わせたということである。

しかし、ギリシア語の"Χ"に由来する語の中には/x/に音変化しているものと"Kristo"のように/k/の音になっているものがある。

そこで、 /x/(古くは/ç/)の音であることを強調するために"h"が前置され、"hx"のような綴りが生まれたと考えている。

 さらに、"q"が廃れ"k"が残ったのもギリシア語に倣ったものと考えられる。

 また、「表記法」の項の「⑦サーカムフレックスの由来」で「ii. /h/または/ç/を表す記号が変化したもの」を採用する場合は、ギリシア語の有気記号が変化したものとすることができる。

しかし、表記法が安定していない古い時代には古典ラテン語や他のロマンス語のように記述する方法と混在して使用されていたと考える。

 

・アルカイカエスペラントムとの比較

そのエスペラントでは廃れた表記法を保っているのがアルカイカエスペラントムであるとする。北ロマンス語圏での共通語は宗教によって分離し、エスペラントとアルカイカエスペラントムという二つの公用語が生まれたと考える。

(以下、アルカイカエスペラントム地域を西方北ロマンス語圏、エスペラント地域を東方北ロマンス語圏とする)

西方北ロマンス語圏はカトリック系であり、エスペラントと違いアルカイカエスペラントムが口語で使われることはほとんどなかった。そのため古い文法範疇を残しているが、口語の共通語はこの地域でもエスペラントが使われたため語彙が似通ってしまっていると考える。

 

 また、アルカイカエスペラントムでは/f/を"ph"、/v/を"w"としているが、これは上記のギリシア的表記法から下記のように推測する。

古代の表記法ではギリシア文字"ϝ"に倣って/w/を表すために"F"を使うことがあり、一部は後世にも受け継がれた。

その後、/w/を表す"f"と区別するために、/f/を表す文字としてギリシア文字"φ"が使われ、逆に/w/を表すためには"w"という表記法がなされるようになり、"f"は廃れた。その後、"φ"はラテン文字化され"ph"となった。(逆にエスペラントではこのような表記法は廃れた)

 

・語彙について

ゲルマン語由来の語彙はi-ウムラウトの後に借用されているように見えることから、ゲルマン系との接触時期i-ウムラウト現象の後だと考えている。

また、下記のような音韻変化が見られる。

エスanimo イドanmoのようにイドでは/i/が消えている単語が存在する

エスabomeni イドabominaroのようにイドでは/e/が/i/になっている単語が存在する

ただしまだ全体を見ることができていないので今後の課題としたい。

 

・代名詞

エスペラントの人称代名詞はmiやviのように主格としては珍しい形(他のヨーロッパ印欧語と比べると)をしている。

これについてはフランス語に見られるような強勢形に由来するものとして説明できるのではないかと考えている。

 

 ・今後の課題

①ここまで書いた想定が大丈夫か考える。

②上記のような語彙の対応の考察

③副詞語尾-aŭの由来(ラテン語ab?)

④アルカイカエスペラントムの副詞語尾-œの由来

 

思いつく限りではこのくらい。

ちなみに、「北ロマンス語圏」という用語やエスペラントとアルカイカエスペラントムを完全な同一系統としなかったことは ひと氏@ogogogouy のツイートを参考にした。